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介護する人を支援するための法律〜イギリスの介護者(機会均等)法

日本で、過去12年間に発生した「介護殺人」は454件。
これは、高齢者虐待について研究している、日本福祉大の湯原悦子准教授の調査で明らかになった数です。

最近、4年間では、年間40〜50件もの殺人が発生しているのだとか。
つまり我が国では、月に3〜4件もの介護殺人が起きているというのです。

介護殺人や介護者による高齢者虐待を減らすためには、どうしたらいいのか?
このことについて、湯原先生が対談をしている記事を以下に引用します。

--------------------(ここから引用です)---------------------

介護する側を守る法とシステムの確立を

 過去12年間に発生した「介護殺人」は454件。つまり、この国では、介護者が要介護者を殺す事件が、月に3件程度は発生している-。日本福祉大の湯原悦子准教授の調査で明らかになった現実である。高齢化が進行する中、この痛まし過ぎる現実を解決するすべはあるのか。「まずは、介護する側を守る法とシステムの確立が不可欠」と訴える湯原准教授に話を聞いた。

―12年間に454件もの介護殺人が発生しているとは、想像以上の数でした。

残念ながら、その数ですらも氷山の一角にすぎません。

―どういうことでしょうか。

 今回、発表した数字は、新聞報道された事件のうち「被害者は60歳以上。介護が原因で家族や親族によって引き起こされた殺人や心中」だけを集計したものです。しかも心中については、遺書やメモなどで介護が背景にあるとはっきりしたものだけをカウントしました。理由がよく分からない心中も少なくありませんから、現実の介護殺人はもっと多いはずです。

―2000年には介護保険が導入されています。この保険は、介護殺人の発生状況に変化をもたらしているでしょうか。

 一時的に減った時期はありますが、最近4年間だけで見ると、年間40-50件もの殺人が発生しています。介護保険が導入されたからといって、介護殺人が減っているわけではないと言えるでしょう。

―介護殺人の特徴について教えてください。

 特徴の一つは、半分以上が心中目的であることです。これは、10年以上前から変わりません。また、加害者と被害者の立場で見れば、「息子が親」を殺すパターンと、「夫が妻」を殺すパターンが多いですね。最近はどちらかというと、「夫が妻」を殺すパターンの増加が目に付きます。
 男性が加害者となるケースが圧倒的に多いのも特徴です。事実、454件の7割余りは、男性が加害者でした。虐待にしても、かつてはお嫁さんが義理の父母への加害者となるパターンが多かったのですが、今では息子が実の父母を虐待するケースの方が目立ちます。

―なぜ男性の介護者は、殺人や虐待の加害者になりやすいのでしょうか。

 男性の場合、介護だけでなく家事でも行き詰まる人が多いからでしょう。例えば、ほとんどすべての女性は、スーパーマーケットでの買い物を苦痛と感じることはありません。ところが、男性は違います。特に現役時代、一定の社会的地位にあった人は、「スーパーで買い物かごを提げた自分」に、たまらないほどのみじめさを感じることもあるようです。

 また、比較的高齢の男性では、悩みを他人に相談したり、愚痴をこぼしたりすることを潔しとせず、黙々と介護に取り組む人を多く見掛けます。ちょっとしたことでも友人としゃべり合い、不安や悩みの“重さ”を分かち合う女性とは、まるで違います。このあたりにも、男性が加害者になってしまう原因があると思われます。
 「悩みを打ち明けるか、自分の胸にしまっておくか」など、単に生き方の相違で、殺人や虐待を引き起こすような問題ではないと思う方がいるかもしれません。しかし、誰とも悩みや不安を共有せず、一人で頑張り続ける時間が1年、2年、3年…と続いていくとしたら、どうでしょう。どんなに心が強い人でも、心身共に疲労困憊して、うつ状態になり、将来に希望を見いだせなくなるのではないでしょうか。

―すると、虐待や殺人に走りやすいのは「妻の介護を手掛ける夫」ということでしょうか。

 確かに「夫が妻」を殺してしまう例は増えています。しかし、それより深刻な問題が発生しやすいケースがあります。「無職の息子が母親を介護する」ケースです。特に、その息子が引きこもりがちだったりすると危険です。こうした男性のほとんどは、介護に関する知識がない上、他の人に助けを求めることが苦手だからです。
 例えば08年7月には、引きこもりの男性が介護を必要する母親の面倒を見きれず、絞殺する事件も発生しましたが、この母親は、ほとんど介護を受けていませんでした。殺される直前などは、ほとんど食事を口にしていない状態でした。

―介護殺人や虐待を防ぐには、どうしたらよいでしょうか。

 殺人にしろ、虐待にしろ、その兆候となる言動をキャッチすることが発生防止のカギとなります。だからケアマネはもちろん、家族や親せきも、最悪の事態もあり得ることを心に留め、介護者が頑張り過ぎていないか、うつ状態になっていないかなどに注意を払うことが必要です。

―しかし、家族やケアマネの注意力に頼るだけの対策では限界があります。法や制度の改革で、問題を根本的に解決することはできないでしょうか。

 まずやるべきは、介護者の権利擁護の根拠となる「介護者法」を制定することでしょう。英国などでは施行されている法律ですが、その理念は「介護役割を引き受けることによって、社会的に孤立したり、余暇が楽しめなくなったり、就労の機会が奪われたりしてはならない」です。
 日本の社会では、自らの生活や権利を抑制してでも介護を全うすべき、という雰囲気があるように思えてなりません。その結果、心身共に疲れ果てた介護者が殺人や虐待を引き起こしているのではないでしょうか。そうした雰囲気を変えるためにも、介護者の権利を守る法律を制定することから始めるべきだと思うのです。近日中には、同様の志を持った識者や大学関係者が集まり、介護者の権利を守るための団体を立ち上げ、介護者法の確立に向け運動を進めていく予定です。

―しかし、法を作るだけでは、現実の問題は解決しないのではないでしょうか。

 もちろんです。介護者法の成立を目指すと同時に、介護者の心身の状況などを推し量るアセスメント作りにも取り組みたいと考えています。アセスメントについては、まだ検討を始めたばかりなので、多くは語れませんが、例えば「うつ状態」にあるかどうかの検査項目などは、ぜひ盛り込みたいですね。
いずれにせよ、このまま手をこまねいていては、介護殺人も虐待も減ることはありません。一刻も早く、介護者を守る法とシステムを整備する必要があります。

( 2010年05月15日 10:00 キャリアブレイン )
http://news.cabrain.net/article.do?newsId=27614

----------------------(引用ここまでです)-----------------------

文中で、イギリスの「介護者法」について言及されているので、少し調べてみました。

イギリスでは、家族や友人、近隣の人など、ボランティアで介護をしている人を「介護者(ケアラー)」と呼んでいます。
(仕事で行っている介護職のフォーマルサービスと区別するために、インフォーマルな介護サービスを「介護者」と位置づけているようですが、注目すべきは、「介護者」を家族だけでなく、友人や近隣の人も含めていることだと思います)

こうした仕事でなく、自発的な意志で親しい人の介護を行う「介護者」に対して、イギリスでは支援する法律を整備しています。
それが、「介護者法」です。

特徴は
①介護者がどの程度、介護をすることができるのかをアセスメントする
 (自治体はアセスメント請求権が介護者にあることを知らせる義務がある)
②要介護者から離れて、自分の生活を楽しむための「介護休業制度」がある
③介護者手当、税制上の措置、公的年金制度上の取り扱いなど、介護を行うことで経済的に不利にならないよう、所得保障がある
④介護者が仕事に戻れるよう支援する
などのようです。

以下に、介護者法について、簡潔にまとめてあったホームページをリンクしておきます。
矢部久美子のイギリス福祉情報 No.37
http://www.tutui.com/yabe/yabe_37.html

---------------------(ここから引用です)----------------------

家族など介護者への支援を強化する法が成立

 介護者(機会均等)法 Carers(equal opportunities) Actが2004年7月22日に成立した。www.dh.gov.uk
 同法の狙いは1995年、2000年の介護者関連法を強化し、介護者の生活の質を高め、介護を続けることができるよう支援することだ。
 自治体がケアのニーズのある人とその介護者のニーズを審査しサービスを組み立てているが、同法は自治体に、介護者がニーズ審査を受ける権利があるということを介護者本人に知らせることを義務付けた。多くの介護者が介護者としてニーズ審査を受ける権利があるにもかかわらず、そのことを知らずにいるという状況を改善することになるだろう。また自治体のケアマネジャーは、介護者のニーズ審査を行なうときに介護者の働きたいという願いや研修、娯楽などへの望みを考慮にいれることも義務付けられた。

--------------------------(引用ここまでです)-------------------

日本の在宅介護は、家族介護に頼ってきました。
しかし介護保険制度では、本人のアセスメントはしても、介護者のアセスメントは行わず、介護者である家族の介護力は、要介護度を決める際に考慮されてきませんでした。

在宅介護を願う人は多いし、できれば愛する家族に介護されたい(家族も介護したい)という思いは根強くあります。
介護者の支援をおきざりにしては、在宅介護を支えることは難しいと思います。

介護される人の人権とともに、介護者の人権も保障する。
そうした視点での制度改革が必要だと感じています。

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コメント

イギリス介護法を探していたらこちらにたどり着きました。
今、在宅介護に不安を抱えながら母を在宅介護しようと
暗中模索しています。ブログアドレス張りました。どうか、国を変えてください。議員さんしか国に訴えられないから。市民は閉鎖的な中で介護と苦しんでします。

投稿: yoo | 2010年8月23日 (月) 08時03分

yooさま

コメントをお寄せいただきまして、ありがとうございました。
それなのに、返事がすっかり遅くなり、申し訳ありませんでした。

ブログ、拝見しました。
お父様を看取られたのですね。
ずいぶんつらい思いをし、不安の中でがんばっていらっしゃる。

日本の介護者は公的な支援が得られない状況は、変えていかなければいけないと思っています。
yooさん、どうか、一人でがんばりすぎないで。

投稿: 山下りつこ | 2010年8月24日 (火) 23時46分

はじめまして。NHKのクローズアップ日本で日本の介護の問題とイギリスの介護法について特集していました(10月14日)。
拙ブログにて山下様の記事の引用と紹介をしましたのでご連絡いたしました。すばらしい働きをなされていますね。これからもがんばってくださいませ。

投稿: てんしちゃん | 2010年10月15日 (金) 21時48分

てんしちゃん さま

わたしのブログを読んで、紹介いただきまして、本当にありがとうございました。
過分なお褒めの言葉と、激励までいただき、力が湧いてくる思いです。

これからも、自分にできることを少しずつでも、やっていこうと思います。
ありがとうございました。

投稿: 山下りつこ | 2010年10月16日 (土) 01時46分

はじめまして

親の介護(現在進行)をしているアラカン女です。
 また、仕事として障がいをもつ方の地域生活支援を、
そして現在は障がい者の家族会のお手伝いをしています。
 研究者や支援者とともに介護当事者も法の整備に声を
あげていく必要があると思います。家族会でイギリスの介護者法を
学習しようと考えていてこの記事を読ませていただきました。
 ありがとうございます。
家族が学習するためのあまりむずかしくないテキスト等あれば
教えていただけるとうれしいです。ネットで文献は探しています。
 今後ともいろいろと情報をいただけるとありがたいです。
 家族会で出している毎月のおたよりに、介護者法に関する記事を
引用させていただいてよろしいでしょうか。
 あつかましいお願いばかりで申し訳ありませんが、これからも
よろしくお願いいたします。 

 

投稿: ややむ | 2011年4月12日 (火) 10時07分

ややむ さま

はじめまして。ようこそ、おいで下さいました。
ブログを読んでいただき、ありがとうございます。

わたしのブログ記事でよければ、どうぞお使いください。
イギリスの介護者法については、わたしもネット上で調べたぐらいで、まとまった本(テキスト)や参考文献を読んだわけではありません。
お役に立てず、申しわけありません。

どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。

投稿: 山下りつこ | 2011年4月14日 (木) 00時20分

隣の市で現在、認知症の70代母が一人暮らしです。娘の私は、長年軽度の精神疾患を持つ40代主婦です(このために子供をあきらめました)幼少より人とうまく関われず、学生生活も孤立しがち、社会では無能者扱いで職を転々とし、家でも外でも叱られてばかりの日々。遠方の兄夫婦からは昔から精神不安定の妹と見下される存在。なのに、娘だから、近くに住んでいるから世話して当然と見なされ、自分なりにやった事は勝手にやってるとの言われよう。母は広い土地屋敷に執着して在宅のこだわりが強く、しかし金遣いが荒いため第三者の成年後見人を立てようとしたら、母自身も、なぜか兄夫婦も拒否。まだ体の介護はいらず、要支援1ですが、ボケる以前から、母の安上がりな家政婦さん的扱いが続いた怨みから、今は離婚して旧姓になり、母と兄夫婦を殺したいと強く思います。

投稿: ねこ | 2012年3月 4日 (日) 17時41分

本当に本当にどうかこのような介護方ができる事を願っています。
1人娘で独身、両親共に倒れ、仕事を辞め、父は看とりました。
母の見守り介護中は役所では心ない罵声を浴びせられ(一時保険や市民税、年金など支払いも出来ず…)
なかなか親がまだ若い同年代の友人達には理解してもらえず相談もできませんでした。
本当に介護する者にも保護が必要、ガイドラインや法案がなけれな介護心中だって増えてしまう。
ずっとそれを考えていたのでこのサイトを読んだ時希望が見えたというか、イギリスの介護法のようなモノがあれば
厚労省のいう在宅にもっていき医療費削減したい(急性期のベッド確保なんて建前にしか思えない)
3ヶ月転院のルールも本当に病気の高齢者でも家族も本人も少しでも良くなりたいと願い頑張っている気持ちも何もかも踏みにじられ、
散々きちんと納めてきたのに病気になればさっさと死ねと言う事か と言った父の表情が忘れられません…
どうか助けてください
私と同じ状況の中必死に親を支えてる方もあらっしゃいました。
自分の生活も制限どころか捨てて必死な方もいました。
そして病院では家族で本人の希望の延命さえ口ばしれば悪者にされる場合もある。
どうか助けてください。
自分にも時間があれば
なにかしら動きたい。この国は冷酷です。

投稿: R | 2014年10月11日 (土) 01時49分

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