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バリデーションに取り組む、特養ホーム「蒲郡眺海園」

介護が必要な人が暮らす特別養護老人ホーム。
どの施設も重度化が進み、入居者の8〜9割が認知症というのが実情だ。
こうした現状をきちんと受け止め、プロとして認知症のケアに取り組む施設がある。

蒲郡市に20年ほど前にできた特養ホーム「蒲郡眺海園」は、3年前から認知症ケアとしてバリデーションに取り組んでいる。
特徴的なのは、週2回、2グループを対象に行うグループバリデーションだ。

参加するのは、認知症のお年寄り4〜7人と、介護スタッフ2〜3人。
バリデーションの研修を受けた介護スタッフの1人が、会話の進行役や質問の投げかけを行い、認知症でふだんはなかなか会話ができないお年寄り本人が、自ら感じたことを発言し、感情を表に出せるように、輪になってグループで会話をしていく。

重要なのは、どのお年寄りも役割を持って、グループバリデーションに参加をしていることだという。
議長(最初にあいさつをする)、音楽担当(歌を歌うリーダー役)、接待担当(お茶とおまんじゅうを参加者に配る)、助言者など、その方にあった役割を持って、場に参加することで、お年寄りは自信を回復し、変わっていく。

「めざしているのは、お年寄り同士のパートナーケアです。お年寄り同士がかかわりあい、お互いに支え合う関係をつくっていくきっかけになればと思っています」
と話すのは、バリデーションの研修に自ら参加し、指導にもあたっている施設長の早川昌宏さんだ。

グループバリデーションの場では、
○「お父さん、お母さん」をテーマとした時、母親に早く死に別れた男性入居者が、言葉にだして言えずに抱えていた淋しさや悲しさを、議長役の女性入居者が「おっかさんと呼びたいのに、おっかさんがいないのは、さびしい」と代弁し、その悲しみを参加者全員で共感することで、男性が「ありがとう」といって涙した。
○「施設に入って寂しくないですか」という問いかけに対して、お年寄りが口々に「家に帰りたい」と本音を吐露し、「家に帰りたいと思っているのはみんな一緒。自分だけじゃなかったんだ」と思いを共有し、安心できた。
など、お年寄り同士の心の交流が見られるという。

「グループバリデーションは、約1時間のセッションですが、認知症のお年寄りが役割をもってグループの中の居場所を感じることで、必死になって能力を発揮しようとするのです。その今までに見たこともない姿に、こんなにできることがあったんだと驚くこともしばしば。ふだんケアにあたっているスタッフも、まるで別人みたいとびっくりします」と、早川さん。
バリデーションをすることで、今まで認知症でわからなくなった人だと思いこんでいたスタッフの
意識が変わることにも、大いに意義があると感じているそうだ。

バリデーションは、話ができる認知症の方だけでなく、重度になって発話ができなくなった人や、寝たきりで植物状態に近くなった人に対しても、コミュニケーションをとる力をもっている。

早川さんは、発語がなくなり表情がなくなってしまった入居者には、一対一での個別のバリデーションを行っている。
言葉ではコミュニケーションがとれない方には、言葉の代わりにバリデーションの技術のひとつ「タッチング」を使う。
私はその様子をうつしたビデオを見せていただいた。
まったく無表情のまま横たわっていたお年寄りに、早川さんが目と目を合わせて、優しく肩をさわりながら(肩をタッチするのは友達のタッチング)、呼吸を合わせていく。
するとしだいに、お年寄りの口元が少しずつもぐもぐしだし、早川さんの歌う歌に合わせて「あっ、あっ」と小さく声を出す。
最後には「ありがとう」と声にならない声で、早川さんに話しかける様子は、本当に驚きだった。

認知症のお年寄りの心をまるごと受け止め、その思いに徹底的によりそう。
そう努力している時に、「お年寄りの表情がひゅっと変わる」瞬間があると早川さんは言う。
「家族や住み慣れた地域から切り離され、あきらめきっていたお年寄りが、バリデーションをきっかけに、心の底に封じ込めてきた感情を出せるようになり、その人らしさを表せるようになるんです」。

生かされてきた人が、自ら生きる姿勢に変わる瞬間。
その瞬間が見たくて、早川さんはバリデーションを続けているのだという。

認知症になっても、言葉を失っても、寝たきりになっても。
人は人とつながる力、心を通い合わせたいという思いを持っている。
そんなあたりまえのことが、介護や医療の現場では、見過ごされ、忘れられている。

バリデーションというケア技術を通して見えてくるものは、認知症の方の可能性の大きさなのだろうか。
「お年寄りを信じよう!」と言い切る早川さんは、「認知症があっても、ものが言えなくなっても、お年寄りの人生は、本人が自分で決めるもの」だと考えている。
だから、
蒲郡眺海園では、
認知症の方の行動を止めない・制限しないケアを行い続けている。

取材に訪れた時に、私が最初に出会ったのは、
玄関前で犬におやつをあげている車椅子のおじいさんと、車椅子にのって落ち葉を掃いているおばあさん。ロビーで新聞を広げて読んでいるおじいさんだった。

お年寄りに役割がある大切さや、人が生きる意味を理解すること。
それを支えるケアがあること。
蒲郡眺海園で暮らすお年寄り一人一人に、そんな施設の姿勢が表れていると感じた1日だった。


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